原田 裕規 Yuki Harada

評伝クリスチャン・ラッセン 日本に愛された画家
中央公論新社、2023年12月20日

誰よりも海を愛し、海に愛された画家、クリスチャン・リース・ラッセン。90年代、日本で巻き起こった絵画ブームを牽引したラッセンの作品は、当時の日本人にとって「アート」の代名詞として、ピカソやゴッホと並ぶほどに大きな知名度を獲得した。日本デビューから30年強、その受容のかたちを変えながら、一貫して日本に愛されてきたラッセンはその知名度に反して、彼の本質は意外なほどに知られていない。「サーファー画家」というイメージの形成、イルカとクジラという題材、絵画とアクアリウムという方法、日本における受容のされ方……。彼の人生の歩みを辿りながら、作家としての本質、そしてラッセンを愛した日本とは何だったのかを解き明かす決定的評伝。

目次

プロローグ──「やっぱり海は友だちだ」

Ⅰ 「サーファー画家」の誕生
第1章 ハワイ──1950~1980年代
東北の被災地から/生まれ故郷、メンドシーノ/母キャロル──命がけの出産/軍人だった父──ウォルター/ハワイが「楽園」になるまで/サーフィンとの出会い/マリンアートの聖地、ラハイナ/画家としての第一歩/ラハイナという「生態系」/絵を通したコミュニケーション/独自の制作方法/アートとサーフィンの融合/マラ・ワーフでの苦悩/ウィンドサーフィンとの出会い/アスリートとしての活躍/スプレッケルズビル時代/ターニングポイント

第2章 日本(前編)──1990~2000年代
日本進出とインテリアアート/日本での絵画ブーム/絵のある生活/アールビバンの革新性/ヒロ・ヤマガタとは?/日本での商業的成功/絵画商法の問題化/リゾート事業への進出/郊外文化としてのラッセン/文化人からの批判/「ヒロ・ヤマガタ問題」が提起したもの/「大洪水」のビジョン

Ⅱ ラッセンの文化史
第3章 なぜ、イルカなのか?
シービジョン財団の設立/ラッセンがイルカを描く理由/そもそもイルカとは何か?/イルカのキャラクター化/『わんぱくフリッパー』の衝撃/イルカがもたらすヒーリング効果/ジャック・マイヨールの大衆的人気/ジョン・C・リリーの研究/ニューエイジ──宇宙を漂うイルカ/ディープ・エコロジーとは何か?/マルチメディアとしてのイルカ/『ザ・コーヴ』と環境保護活動/エコ・テロリズム──環境保護活の過激化/「イルカがせめてきたぞっ」/生物兵器としてのイルカ

第4章 なぜ、クジラなのか?
西欧のクジラ観──捕鯨と観鯨/日本のクジラ観──「人間」としてのクジラ/メディア・ホエールの誕生/日本での観鯨ブーム/環境保護活動家としてのラッセン/宇宙を漂うクジラたち/日本での孤独

第5章 絵画──クールベからマリンアートまで
「海」の発見/クールベとラッセン/ハドソン・リバー派が描いた「アメリカ」/ワイエスと「視点」の発明/スケッチから見えるもの/『ボブの絵画教室』が生んだ誤配/マリンアートの生態系/ラッセンとウォーホル/アイロニーなきシミュレーション/“純粋な”ポストモダニストとして/終わりなき海獣のたわむれ

第6章 アクアリウム──美術館としての水族館
アクアリウムとは何か?(1)世界初の水族館/アクアリウムとは何か?(2)「海らしい海」を求めて/マリンアートの起源(1)博物画の系譜/マリンアートの起源(2)念写から科学挿絵まで/マリンアートの起源(3)2つの所有欲/絵画とイラストレーションの融合

Ⅲ 日本社会とラッセン
第7章 日本(中編)──1990年代
女優たちとの浮き名/音楽活動(1)ヒーリングミュージック/音楽活動(2)ミュージシャン・デビュー/音楽活動(3)カバーかカラオケか?/渋谷系としてのイルカ/メディアミックス(1)ジグソーパズルからバルーンまで/メディアミックス(2)デジタル画集の試み/メディアミックス(3)革新的な3Dミュージアム/メディアミックス(4) CR・ラッセンワールドMJ/映画出演──メディアミックスの集大成/プロジェクトとしてのラッセン

第8章 日本(後編)──2000~2010年代
ヤンキー文化としてのラッセン/「ラッセン族車」の真実/ディズニー、サンリオ、ももいろクローバーZ/ネタキャラ化するラッセン/ヴェイパーウェイヴによる「発見」/シーパンクとは何か?/シティポップと憧憬/村上春樹から新海誠まで/チームラボとラッセン/「ラッセン展」と「ラッセン本」

Ⅳ 生活、戦争、災害
第9章 生活と戦争
菊畑茂久馬から考える/生活保守の美術(1)ナショナリズム/生活保守の美術(2)絵のある生活/小松崎茂から考える(1)戦争画としての箱絵/小松崎茂から考える(2)ラッセンと戦争画/フジタの戦争画に悪魔性が宿ったわけ/東日本大震災の衝撃/「ぼく、有名じゃないの?」

第10章 ラハイナ──2010~2020年代
暴行事件による逮捕/ラハイナの家の売却/コロナ禍とNFT/ドリームタイム(1)母への想い/ドリームタイム(2)ラッセンが見た夢/叶わなかった夢──ラハイナの焼失/来るべき「ラハイナ」を待ちながら

エピローグ──日本の自画像としてのラッセン

あとがき


info:
評伝クリスチャン・ラッセン 日本に愛された画家
原田裕規 著
出版社:中央公論新社
初版刊行日:2023年12月20日
判型:四六判
ページ数:384ページ
定価:3,300円(10%税込)
ISBNコード:ISBN978-4-12-005724-3
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